夢想物語(仮)
「おかしくなど無いさ。人には、人それぞれの夢がある。」

「無言、だった、じゃないか」

声が震えた。

「ああ、それはな…見ろ」

「え?」

見ろ、と言って桜は人差し指を一本つきだして遠くを指した。
僕は、指の先が指すものを見ようとしたけれど見えるものは夜明けほどの明るさを持った空間だけだった。

「見ろって、なにも無いじゃないか」

僕が言えば、桜はコクリと頷いた。

「なにも無い。そう、湖も海も無いんだ。」


そう言うと桜は、ゆっくり手を下ろして僕を見た。

「お前が人魚だったなら、お前とは出逢うことも無かった。そう思うと、な。」

「…!!」

桜の言っている意味が分かって僕は肩を揺らした。
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