YOU&I

あたしの声に2人の間に流れてた緊張感がプツッと切れ、2人も、野次馬も、全員があたしを見た。

「‥由衣、ごめん、俺、」

どうやら啓ちゃんの中の葛藤は、あたしの一声で良心が勝利したらしく、いきなり焦り出す啓ちゃん。

「啓ちゃんも‥涼喜も。喧嘩なんてらしくないじゃん。やめなよ」

「そうだよね、ごめんね、由衣」

ははっと軽く笑って、啓ちゃんは頭をかいた。
涼喜は何も言わず、切れた口の端を学ランの袖でそっと押えて滲んだ血を拭く。

「つかお前らはもういいだろ、散れよ」

あたしが啓ちゃんに1歩近づくと同時に恭介が野次馬に向けてそう怒鳴った。
恭介としても、啓ちゃんが見世物になるのは納得いかなかったんだろう。
予鈴がもう鳴った事もあり、集まっていた人だかりはいなくなった。

「…由衣」

何か言いたげな顔で口を開いた啓ちゃん。
でもあたしは啓ちゃんの話は後でちゃんと聞こうと思った。

「ちょっと待って啓ちゃん」

右手をかざしてそう言い、あたしは突っ立っている涼喜に駆け寄る。

「涼喜」

「由衣ちゃん」

「口大丈夫?」

どうしてだろう、最近涼喜とはすごく距離が縮まっていて仲が良かったからだろうか。
啓ちゃんがキレた事よりも、涼喜の口の怪我の方が気になったんだ。

「ん?あーちょっと切れただけだからへーき」

そう言って涼喜はいつも通りのへらっとした笑顔を向けた。
安心したあたしは笑顔を向けて、たまたま持っていたバンソーコーを手渡す。

「ありがと由衣ちゃん」

「いいえ!‥この事なんだけどさ、」

「あぁ、俺が教師にどうこう言ったりしないから大丈夫じゃない?」

「…なら、いいけど」

噂が教師の耳に届こうとも、被害者でもある涼喜が何も言わなければ、きっと啓ちゃんも処罰を受けなくてもよくなるだろう。

「うん!じゃ俺戻るわ」

「ありがと、ね、涼喜」

「いーよ」

そう言い残して涼喜は早々と中庭から姿を消した。



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