YOU&I
「由衣、移動するよ」
あーちゃんの声に振り返ると、啓ちゃんと恭介はどの教室からも死角になっている人通りのない渡り廊下にいた。
「うん」
2人に続き、あたしとあーちゃんも渡り廊下を渡り、非常階段に腰を下ろした。
「…啓ちゃん」
あたしは啓ちゃんの正面に座り、そっと話しかける。
啓ちゃんは俯いたままで、表情が見えない。
「ね、啓ちゃん」
もどかしさからさっきより強めの口調で啓ちゃんに声をかけ、右手を啓ちゃんに伸ばす。
しかし、それは遮られる。
「あー、俺、今日はもう帰るわ」
振り払われたわけではない、でも啓ちゃんがそう言っていきなり立ちあがるから、あたしは思わず右手を引っ込めた。
「俺も帰ろーっと」
さっさと校舎に戻っていく啓ちゃんに続き、恭介もそう言っていなくなった。
非常階段にはあたしとあーちゃんが残された。
「…初めてだった?」
沈黙を破ったのは、あーちゃんの一言。
何時の間にか流れていた涙をあたしは片手で拭う。
あーちゃんの唐突な質問の意図がわからず、黙っているとあーちゃんはもう一度、優しい目をして言った。
「啓也に、拒絶されたの」
あぁ、そうか。
あーちゃんに言われて、ようやく自分の涙の意味がわかった。
あたしが手を伸ばせば、啓ちゃんはいつも掴んでくれた。
あたしが話しかければ、啓ちゃんはいつも答えてくれた。
そしてあたしは、啓ちゃんがあたしより先に帰っていくところをとても久しぶりに見た気がした。
告白をされる前から啓ちゃんは、いつも優しくしてくれていた。
いつもあたしに手を差し伸べてくれて、あたしの全てを受け止めてくれる人だった。
こんな小さな、啓ちゃんの拒絶に涙が止まらないあたしは、きっと今まで贅沢をし過ぎた罰を受けてるんだと思う。
「私ね、まだ覚えてるよ。中2んときの」
「…」
あたしだって覚えている。
あれはまだ中2にあがったばかりで、啓ちゃんから2回目の告白を受けた次の日の事。