YOU&I


『…ごめん、由衣。俺が悪いな』

啓ちゃんがあたしの前にしゃがみ込んだ事は、前を見ずともわかった。
啓ちゃんの優しい手があたしの肩と頭に触れる。
あたしはただひたすら強く首を横に振るしか出来なくて、涙で震える顎を押えつける為に下唇を噛んだ。

『俺、由衣を守れればそれだけでいいって本気で思ってるよ。でもその為に周りより特別でいたいってのは、矛盾してるよな』

『ちがう…』

『‥諦めの悪い奴でごめんね、由衣。俺だいぶ厚かましいな』

啓ちゃんは悪くないのに。
啓ちゃんの気持ちは痛いくらいに、こんなに伝わってくるのに。
どうしてあたしは啓ちゃんの気持ちに応えてあげられるほど、啓ちゃんを好きになれないんだろう。
自分が、許せないよ。

『ほら由衣、もう家目の前なんだから泣くな?』

あたしは躊躇った後小さく頷いて、化粧なんてお構いなしに目を裾で擦った。
啓ちゃんが差し伸べてくれた手に掴まり、あたしは立ち上がると、啓ちゃんがあたしの服をほろってくれた。

『よし、帰ろ、由衣』

『…うん』


啓ちゃんは優し過ぎて、そして13や14のあたし達にとって大人過ぎた。
だからこそ、啓ちゃんはたくさん苦しんでいる事をあたしは知っていたのに、たかが13や14の子供のあたしには、なにもできることが見つからなかった。


次の日、啓ちゃんの机は放課後まで誰も座らなかった。
その次の日も次の次の日も。

「啓也もう1週間になるよ」

「…ねぇあーちゃん?」

「ん?」

「あたし‥啓ちゃんの事、酷く傷付けちゃった‥かも…」


それからあたしはあーちゃんにあの日の事を全て話した。
自分達の事を話すわけだから、どこか自分本意になりそうにもなったけど、あたしが酷い事を言ってしまったという事は、しっかり伝えた。

「‥そんな事、あったの」

「うん…」

気付けば次々と流れ出す涙。
あーちゃんの前で泣いたのは、これが初めてだった。




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