YOU&I
2006年春、由衣は尚央高校の門をくぐりました。
高校1年生、ピンと張った真新しい制服を纏い、玄関に張り出された"クラス分け"の張り紙の中から自分の名前を探す。
「春日由衣‥、あった」
受かっている事は元から知っていたけど、やっぱりここに名前を確認するまで、どこか半信半疑だった。
もし名前がなかったらどうしよう、なんて考えるだけでもバカなのに、変な不安があったんだ。
ほっとし、あたしは持っていた袋から上靴を取り出し、玄関を上がり、下駄箱を探す。
わかり易くクラス名が書いてあったから、すぐに見つかった。
外靴を仕舞い、さて教室へ向かおう、そう思った時。
「由衣?」
不意に声をかけられて、あたしの顔は一瞬にして笑顔に変わる。
声だけでわかる。
ざわついている人込みの中でも一際目立つハスキーボイス。
「あーちゃん!」
「由衣久しぶりじゃん!」
振り向いたそこにいたのは、思った通りの人物。
同じ中学出身で、仲良しの葵。
通称"あーちゃん"。
ハスキーボイスで、ロングに大きいパーマをあてていて、オレンジっぽい茶髪。
端整、というのだろうか、ハッキリとした顔立ちで、美人さん。
あたしより6cmくらい身長も高くて、あたしはあーちゃんが大好きだ。
あたしのこれから通う尚央高校は地元の高校。
レベルが高いわけでも低いわけでもない、大抵の人は入れる。
ここは田舎なので地元の高校へ進学したいって人はみんな大体この学校になる。
あたしもその中の1人で、あーちゃんもそうだ。
実を言えば、いま玄関には新入生達でひどい人だかりになっているけど、結構見た事ある顔は多い。