その瞳で見つめて~恋心~【完】
疑いの眼(まなこ)で固まるあたしを見て、彼は呆れて、喧騒(けんそう)の中でもこちらに聞こえるように大きいため息を吐く。


「相変わらず、鈍感なんだな。由奈って」

「ごめんなさい……」

ショックと恥ずかしさで地面とにらめっこしていると、突然に腕を引っ張り上げられて手をつながれる。


「そんな落ち込むなって。な?」

進藤先輩は笑顔でそう言って、ぎゅっと握ってくれた。


優しい先輩。
そんな先輩が大好きでした。
最後まで、優しくって。
 ホントに感謝してます……。


あたしも彼の手を握り返した。

触れた進藤先輩のぬくもりや、優しさを逃がさないために。


進藤先輩はこれからも、先輩でいてくれますか?
 優しい先輩で、いてくれますか……?


つながれた手から、進藤先輩への感謝の気持ちがあふれて伝わりそうだった。


「着いたよ」

広場から観覧車まで、一見してそれほど距離感はなかったはずなのに、お互いに無言だった時間が長かった。


あたしはずっとうつむいていたんだけど、彼が声をかけたので、胸に手を当て目を閉じる。


先輩と乗れるのは、これで最後……。
先輩といられるのは、これで最後だ。


そう、意を決したつもりだった。

なのに、いざ顔を上げようとすると、まるで頭を誰かに押さえつけられているような重い感覚に襲われる。

しかし、上げないわけにはいかない。

もう、現実から目を背けたくないから──。
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