その瞳で見つめて~恋心~【完】
「水嶋さん」

得体の知れないものから打ち勝ち、ようやく頭を上げた瞬間に柔らかい声が聞こえてきた。

それは聞き覚えのある、心のどこかで待ちわびていた声だ。


「進藤……君? なんで……」

あたしの正面に、いるはずのない進藤君が立っていたんだ。


なんで、ここにいるの?
進藤君にとって、ここはイヤな思い出でしかないんだよね?


どうして、進藤君がこのテーマパークにいて、あたしの目の前にいるのか。

その謎があたしの脳内を独占しているせいか、頭に鈍い痛みが走った。


「俺が呼んだんだ」

あたしが戸惑っているそのとき、進藤先輩がそう告白した。


先輩が呼んだ……?


「Wデートのとき、乗せてやんなかったからな。詫びだよ」

「先輩……」

進藤先輩が最後まで優しいのは、やっぱり兄弟して同じなんだ。


あたしのわがままに応対してくれた進藤先輩に、うれしさが胸を埋め尽くすぐらいに積もっていく。

だから、声を発しようとしても、周辺の雑音でかき消されてしまいそうだった。


そんなすっかり弱気になっているあたしに、彼は優しい微笑を浮かべた。


「俺は帰るから。“水嶋”は隼斗と帰れよ。な?」

「──はい!」

あたしは進藤先輩に笑顔を見せた。


ごめんなさい。
そして、ありがとうございます、先輩……。


彼はこちらに背を向けて、歩き出す。

そして、あたしたちに見せるように高々と手を上げ、左右に振りながら人混みに紛れていった。


進藤先輩の姿は小さくなっていくのに、見えていなくても、いつか見たあの広い背中だった。
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