その瞳で見つめて~恋心~【完】
「あ。俺、あそこのショップ見てるから、ゆっくり見てていいよ」

進藤君が指さした先には、ショップの見せ方がうまいメンズ向けのファッションショップ。


あたしは「わかった」と承諾すると、彼は駆けていった。


進藤君ってコーディネートのセンスもあるけど、店選びにもセンスがあるんだな……。


「あ。水嶋さんじゃん」

「え?」

進藤君のセンスの良さに感心していると、耳に残るハスキーボイスが聞こえてきた。


「蓮夜君。蓮夜君もここに用事?」

「ああ、まあな」

こんな場所で逢うとは奇遇だ。

付近で最も大きいと言えば確かにこのショッピングモールなんだけれども、フロア数が多い中で知り合いに会えるなど、かなりの確率だと思う。


「あ。これ、水嶋さんに似合うんじゃね?」

と、体が密着しそうな距離にまで彼が接近してくる。


「れ、蓮夜君!」

「ほら。鏡見てみろって」

蓮夜君はあたしの言葉に耳を貸さず、ミラーの前に立たせて服を合わせてくる。


「よく似合ってるよ」

「ひゃっ……!!」

彼の息が耳を、彼の手がお尻をくすぐった。

何気ないはずなのに、どこかわざとらしさを感じてしまうのは、あたしの気のせいなのだろうか──?


「──感じちゃってんの……?」

鏡に、あたしの背後で蓮夜君が口角を上げて妖しい笑みを浮かべる姿が映る。


もしかして、ホントにわざと……?


「は、離して……っ!」

「何やってんの?」
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