その瞳で見つめて~恋心~【完】
「あ、俺ね。ここのお化け屋敷に行ってみたいって思ってたんだよね」

「え? お化け屋敷……?」

お化け屋敷という言葉に体をビクッと震わせて、過剰な反応を示してしまった。


幽霊とか暗い場所、すごく苦手なんだけど……。


「あ。水嶋さん、お化け屋敷、怖いでしょー? さっきから、判りやすすぎなんだけど」

進藤君は意地悪に笑っている。


うっ、進藤君の意地悪モード、オンだ……。


進藤君の性格なんて、よくわかっている。

けれども、素直じゃない天の邪鬼なあたしは、思わず反論してしまうんだ。


「こ、怖くないよ!」

「そう? ──あ、ちょうど目の前にお化け屋敷、見えたよ?」

進藤君はニコッと爽やかに笑いながら、目の前のお化け屋敷を指差した。


進藤君は、最初からお化け屋敷の方向に歩いていたんだ。


あたしは進藤君にマップを渡すんじゃなかった──そう、激しく後悔した。


だってあたし、方向オンチなんだもん……。


「ねえ、進藤君。やっぱり、やめようよ……」

「えー? だって、怖くないんでしょ?」

「しっ、進藤君の意地悪……! あたしが素直じゃないことや、わかりやすいことぐらい知ってるくせに!」

「そうだっけー?」

進藤君はクスクス笑いながらあたしを置いて、さっさと屋敷の闇の中へ溶け込んでいってしまった。


「あっ、進藤君……!! ──う~……っ」

やっぱり、彼は意地が悪い。

あたしが淋しくなることを見越して、置き去りにしてしまうんだから。
< 94 / 192 >

この作品をシェア

pagetop