白雪姫
白雪姫
鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのはだあれ?
僕は妹に恋をしていた。
妹と言っても血のつながりは無い。
僕が12歳の時に父は再婚し、妹は新しい母の連れ子だった。
初めて会ったのは10年前、まだ幼い妹を見て、お伽話のお姫様かと思った。
真っ黒な豊かな髪に雪のように白い肌。雪に落ちた血のように真っ赤な唇。
妹は僕が幼い頃絵本で見た白雪姫に似ていた。いや、白雪姫そのものだった。
魔女が嫉妬した美貌。世界で一番美しい姫。
しかし妹の名前は夏実といった。
僕は名付けた親のセンスを少し疑った。
その時から、僕の不毛な恋は始まっていたのかもしれない。
ある春の夜、僕は自室の窓から夜桜を見ていた。
街灯に照らされ、青白く輝く桜の花びらは怪しいほど美しかった。
そして突然、そんな僕の情緒を壊すようなあっけらかんとした声がドアの外から響いた。
「お兄ちゃん、携帯の充電機かして。」
夏実はいつもノックも無しに僕の部屋に入ってくる。何度か注意したが改善しようとする気が見られない。
夏実は風呂上がりの様で、濡れた髪の毛を無造作に垂らし、大きめのTシャツをだらんと着ていた。濡れた髪と肩にかけられたピンク色のタオルからはほんのりとシャンプーの香りがした。
僕は夏実の姿を見て少し顔を赤らめ目を反らした。
大学一年生になった夏実は髪を少し茶色に染め、大好きなテニスのせいで少しだけ日焼けしていた。白雪姫とは程遠い外見にはなっていたが、それでも十分に美しく、魅力的だった。
「またヒロシの部屋に忘れたのか?」
僕はのろのろと起き上がり充電機を探した。
「そうなの。パパとママには内緒よ」
夏実は悪怯れもせずに答える。
夏実は美しくなった。あの黒い髪と白い肌は無くしたが、それでも十分に美しかった。そんな夏実を世間の男がほっておくわけは無い。実際夏実の周りには男が切れなかった。
夏実は沢山恋をして、沢山笑って沢山泣いてきた。
白雪姫は沢山恋なんてしない。一人の王子様を待って、待って、待ち続けている。
「ヒロシは優しいの。今までの彼氏のなかで一番。それに私の事を愛してくれるの」
夏実はまだあどけなさが残る顔をくしゃっと崩してにっこりと笑った。
でも僕は知っていた。ヒロシがパチンコをやめない事を。ヒロシが他の女の子と手をつないで街を歩いていた事を。そして、その事を泣きながら夏実が電話で友達に相談していた事を。
「ほら、充電機。あったよ」
僕はそう言って充電機を夏実に手渡した。
「ありがとう。お兄ちゃんと同じ機種にしてよかったー」
夏実はうれしそうに僕の手から充電機を受け取り、部屋から出ていった。
僕は妹に恋をしていた。
妹と言っても血のつながりは無い。
僕が12歳の時に父は再婚し、妹は新しい母の連れ子だった。
初めて会ったのは10年前、まだ幼い妹を見て、お伽話のお姫様かと思った。
真っ黒な豊かな髪に雪のように白い肌。雪に落ちた血のように真っ赤な唇。
妹は僕が幼い頃絵本で見た白雪姫に似ていた。いや、白雪姫そのものだった。
魔女が嫉妬した美貌。世界で一番美しい姫。
しかし妹の名前は夏実といった。
僕は名付けた親のセンスを少し疑った。
その時から、僕の不毛な恋は始まっていたのかもしれない。
ある春の夜、僕は自室の窓から夜桜を見ていた。
街灯に照らされ、青白く輝く桜の花びらは怪しいほど美しかった。
そして突然、そんな僕の情緒を壊すようなあっけらかんとした声がドアの外から響いた。
「お兄ちゃん、携帯の充電機かして。」
夏実はいつもノックも無しに僕の部屋に入ってくる。何度か注意したが改善しようとする気が見られない。
夏実は風呂上がりの様で、濡れた髪の毛を無造作に垂らし、大きめのTシャツをだらんと着ていた。濡れた髪と肩にかけられたピンク色のタオルからはほんのりとシャンプーの香りがした。
僕は夏実の姿を見て少し顔を赤らめ目を反らした。
大学一年生になった夏実は髪を少し茶色に染め、大好きなテニスのせいで少しだけ日焼けしていた。白雪姫とは程遠い外見にはなっていたが、それでも十分に美しく、魅力的だった。
「またヒロシの部屋に忘れたのか?」
僕はのろのろと起き上がり充電機を探した。
「そうなの。パパとママには内緒よ」
夏実は悪怯れもせずに答える。
夏実は美しくなった。あの黒い髪と白い肌は無くしたが、それでも十分に美しかった。そんな夏実を世間の男がほっておくわけは無い。実際夏実の周りには男が切れなかった。
夏実は沢山恋をして、沢山笑って沢山泣いてきた。
白雪姫は沢山恋なんてしない。一人の王子様を待って、待って、待ち続けている。
「ヒロシは優しいの。今までの彼氏のなかで一番。それに私の事を愛してくれるの」
夏実はまだあどけなさが残る顔をくしゃっと崩してにっこりと笑った。
でも僕は知っていた。ヒロシがパチンコをやめない事を。ヒロシが他の女の子と手をつないで街を歩いていた事を。そして、その事を泣きながら夏実が電話で友達に相談していた事を。
「ほら、充電機。あったよ」
僕はそう言って充電機を夏実に手渡した。
「ありがとう。お兄ちゃんと同じ機種にしてよかったー」
夏実はうれしそうに僕の手から充電機を受け取り、部屋から出ていった。