刹那音
『…麻倉第二、奥原……』
ふっとアナウンス音が耳に入ってきた。
「あ、すぐ行きます。すいません」
「奥原お前今日おかしくない?」
「おかしくないです」
「そ?まぁ、大丈夫なら早く本部行ってきなー」
エースにテントを追い出された俺。
太陽の照りつける光が肌にちりちりと刺さる。
「男子共通800m優勝、奥原律」
ぱちぱちと軽い音が鼓膜に響く。
俺はその賞状に目を通す。
――全中標準記録まであとわずかの、その鉛筆書きの数字を見る。
あ…。
自己ベストだ。
ふと希衣のあの笑顔が浮かんだ。
雨の日の。
あの笑顔。
なぜだかは分からない。