刹那音
びっくりしたのか、大きな目を更に見開いて俺の手の上のタオルを見る。
野々宮さんの長い髪から雨の雫が滴り落ちる。
小刻みに震える小さなからだに青ざめた肌。
…こんなの見たら、普通の人だったらタオルぐらい貸すだろう。
「あっ…ありがとう!」
早口でそう言うと俺の手からタオルを取る。
しかし目線を上げて俺の顔を見た途端に、野々宮さんは俺にタオルを返してきた。
「え…あの…?」
状況が理解できない。
「…奥原くんもずぶ濡れだし…悪いよ」
あたしハンカチ持ってるから平気だよ、と既にびちょびちょの桜色のハンカチを俺に見せて笑った。
…あ。
花が咲いたみたいな笑顔だった。
こんなに綺麗な笑顔、はじめてみた。