刹那音
「全中まであと少しだな」
「いや、まだまだだよ」
「ははっ、律らしいわ」
千尋が笑う。
千尋はいつも笑顔だ。
俺はすごいと思う。
自分の結果がよかろうが悪かろうが、そんなの表に出さない千尋を。
「あ、そだ」
千尋が思い出したように言う。
「律、今日暇?」
「なんで?」
「ゆっきー先輩が長距離で飯いかねぇかーだってよ」
「何でまた…」
――北見雪矢。
通称(二年の間で):ゆっきー先輩
麻倉第二中の部長であり、長距離走者である。
それで、あの紗雪先輩といとこだったりする。
「秋の駅伝の対策練るとか」
「もう?」
「らしい。あ、ちなみに桜屋で」
「えー焼き肉の気分じゃない…。これから??」