刹那音


桜屋は、顧問の桜木隆介(サクラギリュウスケ)のご両親が営んでいる焼肉店である。


俺達が行くとまけてくれるから、いつも長引きそうなミーティングはここでしていた。

…逆に桜屋でミーティングということは、長い話が待っているということだ。



「まあ俺は短距離だから関係ねぇけど〜」

焼き肉は食いたいけど、と言いながら近くにある小石を蹴った。


「で?行くん?」

「あー行かなきゃだよね。駅伝の話だし」

疲労がだいぶあるけど。

焼き肉より冷たいものが食べたいけど。

仕方ない。


「律、何か今日変じゃねぇ?」

「え、それ紗雪先輩にも言われた」

昨日も梓に言われた。

なんで、俺、そんな変?


「顔赤いし…ぼーっとしてるし」

熱でもあんのか?と問う千尋。

…ぼーっとしてるのは…。

なんで、また希衣が浮かんだんだろ。


「…疲れてるだけだよ、多分」

適当に返事を返す。

「多分かよっ!大丈夫か?」

「…ああ、多分」


多分ばっかりだ。

千尋が呆れて笑う。


「まあ無理すんなや」

「うん」


千尋がさっき買ってきたというスポーツドリンクを手渡してくれた。
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