刹那音
もう希衣は俺と別の方向を向いているのに。
「野々宮ー」
「あっ、二人ともこれから塾?」
千尋が呼ぶ先には、信号待ちしている少女の姿。
「そうだよ~野々宮は?」
「あたしはこれから図書館だよ」
彼女はにこりと笑いかける。
そして白い息を両手に吹きかけた。
あの、雨の日のように。
「野々宮手袋してないじゃん。寒そうだし、カイロあげよっか」
にかっと笑って、千尋はさっき俺があげたカイロを希衣に差し出した。
「いいの?」
「いいよ~つっても、それ律にもらったやつだけど」
「えっ」
希衣がぱっとこっちをみる。
…目が合う。