刹那音
「あっ……やっぱ、なんでもない」
野々宮さんは俺のほうを見て、ばちっと目が合って、そしたら目をそらしてそう言った。
俺も。
気付かれないように横目で野々宮さんを見てたつもりなのに、目が合ってしまってどうしていいか分からなかった。
行き場のなくなった視線が宙を泳ぐ。
そしてもう一度、野々宮を見た。
野々宮さんも、俺を見ていた。
二人は顔を見合わせる。
そして、なんだか可笑しくなって笑ってしまった。
温かい何かが全身に伝わる。
…気づいたら雨は止んでいた。
空は夕焼け。
二人の白い制服を、
オレンジ色の光が照らしていた。