刹那音
「夢架」
小さく名前を呼ばれた彼女は、石のように固まっていた。
目の前の机に広げた高校の課題は、数学の三平方のページ。
手に握られた赤ペンは、以前夢架が間違えて持って帰った俺のペン。
そしてその隣にあるカバンから覗いているチョコレートの箱は、俺が好きなチョコレートだった。
………きり、きり。
息苦しい。
胸がもやもやとした。
「…夢架」
もう一度呼びかけてみる。
ただの自意識過剰かもしれない。
でも、でもでも。
やっぱ苦しかった。
罪悪感がすごく苦しかった。