刹那音
希衣が、俺たち3組の下駄箱の前に立ち止まっていた。
希衣はじっと、俺ら3組男子の下駄箱のあたりを見ている。
手には1つの小さな箱。
それをそっと、上から2番目の下駄箱に入れようとした。
「あれっ希衣ー?」
玄関の向こう側から声がした。
「み、翠!」
下駄箱のかげから現れたのは…
希衣の彼氏。
そして俺の友達、部活メイト。
…山下翠だった。
希衣がびくっとして、とっさにチョコレートの箱をカバンの中へ隠した。
…隠した?
じゃああれは翠宛じゃないんだ。
そうだよな、翠は5組だから3組の下駄箱に希衣がいるわけないよな。
じゃあ誰宛?
「何してんの?帰ろーよ」
「あ…今日は用事があるから先帰ってて…」
「え~せっかく待ってたのに、残念」
…希衣、変じゃね?
翠に目も合わせようとしない。