刹那音
「希衣」
希衣にやっぱり伝えたいと思った。
思ったけど。
希衣を見つけた。
あのバレンタインの日と同じように、玄関で。
希衣は翠と一緒。
「希衣、俺の第二ボタンもらって?」
「…うん、当たり前じゃん」
「よかった。卒業してもずっと一緒な」
しあわせそうに笑う二人。
…気づいたときには歩き出していた。
さっきとは別の方向に。
俺には壊せない。
友達と好きな人、両方の笑顔が。
また俺は弱虫。
涙がぽたぽたと落ちた。