刹那音


「希衣」


希衣にやっぱり伝えたいと思った。

思ったけど。


希衣を見つけた。

あのバレンタインの日と同じように、玄関で。


希衣は翠と一緒。



「希衣、俺の第二ボタンもらって?」

「…うん、当たり前じゃん」

「よかった。卒業してもずっと一緒な」


しあわせそうに笑う二人。



…気づいたときには歩き出していた。

さっきとは別の方向に。


俺には壊せない。

友達と好きな人、両方の笑顔が。


また俺は弱虫。


涙がぽたぽたと落ちた。

< 98 / 161 >

この作品をシェア

pagetop