それは舞い散る桜のように
そう言うと、彼は優しく私の頭に手を当てた。
「本当に、ごめんな。痛かっただろ?」
伝わってくる温もりが、心地いい。
痛みが少し和らぐような感覚。
……だんだん、何があったのか、記憶が甦ってくる。
そうだ。女の子と、確か、ぶつかって……。
「あ……大丈夫、です」
「そう。良かった」
そう言って彼は柔らかく微笑んだ。
……とてもー綺麗な顔だと、思った。
男の人であることが、勿体ない、と思う程に。
「でも驚きました。寺内さんの娘さんなんですね」
「えぇ。一人娘で」
「よく似ていらっしゃる」
「あら、そうですか?」
「えぇ」
彼の綺麗な黒い瞳がじっと私を見つめる。
私は思わず目を反らした。
こんな綺麗な人にじっと見つめられると、駄目だ。
ただでさえ、今心臓が跳ねあがっているのにー。
「寺内さんは本当に優秀な技師でね。医師は皆信頼してるんだよ」
「あ……そ、そうなん、ですかっ」
「そう。俺もまだ研修医だった頃、大分助けてもらって。今でも俺が気付かないこと気付かれたりするし。ー最高の検査技師だと思いますよ、寺内さんは」
「御崎先生にそう言って頂けると、嬉しいです」
ふたりはそう言って笑いあう。