それは舞い散る桜のように




「でも、ついてないね。ぶつかられるなんて」

私は苦笑しながら、傷にそっと手をやって言った。

「無事で良かった。御崎先生から急に申し訳なさそうに院内電話が掛かってきて、何事かと思ったわ」

「ー仕事、中断してきたの?」

「ううん。もう夜勤者と交代の時間だから」

「そっか。おつかれさまだね」


「さくらも」


うーん。確かに、色々あって疲れたなぁ(テスト含め)。

今日はついてない日かもしれない。

そう思いながら、お母さんと話をしていると、途中でドアがノックされ、
躊躇いがちにゆっくりドアが開いたかと思うと、

「あの……」

その隙間からひょっこり、女の子が顔を覗かせた。


「理緒ちゃん」

「えっと……あの、謝りにきましたー……」

私とぶつかった、あの女の子だった。
ここで入院しているのだろう、白いパジャマに身を包んでいる。
……歳は、私とそんなに変わらないだろうか。
細い身体が、何処か弱々しかった。

「そんなに恐縮しないで。大丈夫よこの子怒ってないし、見てのとおり、元気みたいだから」

恐らくお母さんも知っているのだろう、親しげに話す。

そして、理緒ちゃんと呼ばれたその子は、不安げに、私の方を見て、深く頭を下げた。

「本当に、すみませんでした。私、こんなことになるなんて、全然……」


「あ……だ、大丈夫、ですよっ。気にしてないです!事故だし!」


慌てて取り繕う。
こんな畏まられても対応に、困るだけだ。

私の返事に、その子はゆっくり頭を上げ、


「それでも、私の、責任だから。わたし、良くなかった。あんなに走ったりして」


そう言い切り、再び深々と頭を下げ、


「ごめんなさい」


「大丈夫だよ。本当に。顔、上げて」


私がそういうと、ゆっくり顔をあげて、その透明な瞳が私を捉えた。

ー綺麗な黒だった。

「理緒ちゃんーって、いうの?」

なんだか自然にでた言葉が、それだった。
彼女は、多少驚いた顔を見せつつ、そっと頷く。

「ここで、入院してるんだ」

「…うん」

「はやく、良くなるといいね」


「……。ありがとう」

最後に彼女は精一杯の笑顔を見せて、再び頭を下げると、部屋を去って行った。




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