それは舞い散る桜のように
足音が遠ざかって、しばらく経ったあと。
「……あの子ね」
とお母さんは躊躇いがちに、言葉を選ぶように切り出した。
「御崎先生が担当医で、宮崎、理緒ちゃんっていうんだけどー。三ヶ月ほど前に、他県から転院してきたばっかりなんだ。
まだ若いし、知らない土地で、友達もいないでしょう。
退院の目処も立たないから、多分色々溜まっちゃってたんだと思う。
ー悪い子じゃないから、本当に、許してあげてね」
……あぁ。やっぱり、あの子は、何か、重い病気なのか……。
私と同じぐらいの歳で。
……そう思うと、心が痛んだ。
『どうせ検査なんて受けても悪くなってるだけでしょ』と叫んでいたことが今更ながらに思い返される。
「……うん。
……大変、だね。その子」
「本当にね。
良かったら、さくらも、話し相手になってあげて。きっとこれも何かの縁よ?」
お母さんは少し冗談めかしたように笑いながら言う。
私はそれを冗談として受け止めた。
……可愛い子だった。
ー確かに、もっと話してみたい、とも思ったけれど。
病気の子と、上手くやれるような自信が、どうにも持てなかった。
だけど。
「病室は、血液内科の五楷。詳しくは、看護師さんに訊いてみなさい」
お母さんのその言葉が、あの子の顔と共に、やけに、胸の奥に、残っていたー。