それは舞い散る桜のように



……忘れるわけない。

彼があの日奏でた旋律。

彼とこの景色を見たこと。

……いつまでも、記憶は色褪せずに胸のなかにある。


それは時に私を苦しめたりするけれど。

いつまでも彼は私の憧れだ。

彼がいたから、私はここに立っていられるんだと思う。


……彼は今、どこにいるのだろう。


もしかしたら、京都にいるのかもしれないけれど。

その可能性を、私はあまり信じなかった。
……私は彼にはもう二度と会えないと、思っていたほうが楽だった。

……だから、あまり深く考えるのは、やめよう。

そう思って、勉強をしようと、かばんの中から一冊の本を取り出す。

『医師国家試験合格!必勝テキスト』
だとか書かれたそれは、もうすっかりよれよれで、
使い古されていた。

ぱらぱらとページをめくり、何度も覚えたことを確認していく。




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