それは舞い散る桜のように
もう実は国家試験は終わって、明後日から卒業した大学の附属病院で研修医として働く予定なのだけれど、
それでもどうしても医師としてやっていけるか不安が募り、確認せずにはいられなかった。
それならこんな知識を確認するよりも大学へ行って、
採血の練習だとか、実践的なことをやったほうが些かいいような気もしたが。
……はやく、一人前の医師になりたい。
その思いが、ただただあった。
「さくらは、熱心だね」
友達は苦笑した。
「私は、親が開業医で、成り行きで医学科進んだだけだからさ。
しかも大学一年留年したし。
そんなに熱心なの、いっつも、凄いなって思う。
何か、理由があるの?」
「……理由……か」
突然の質問に、私はそこで本を一度閉じた。
数秒、考えた後、
「……何でかな。敢えていうなら、追いつきたい人がいるから?」
「えー。何それ、誰っ?その人も医者なの?」
「……うん。血液、内科の」
「なんで知り合ったの?もしかして、初恋の人とか!??」
「……えっ、と」
私は言葉を濁した。
中途半端な言葉で繕いたくもないことだけれど、
真面目に答えようとすれば嫌でも記憶の断片に触れることになる。
一瞬、頭の中に彼に最後頭を撫でられた記憶が浮かんで、胸の奥がちくりと痛んだ。
……けれど、彼と過ごした日々は私の中で、今でも輝いている筈だった。
……優しい人だった。
優しい、音を奏でる人だった。
けれどあまり器用な人ではなく、むしろ不器用で、私が思っている以上に繊細な人だったのかもしれない。
……あの人は。
「……あ。ごめん、もしかして、話しにくい?」
……私は黙って首を横に振った。
「ううん……いいの。ただ、少し……長くなる……かな」
迷いを振り払うように、私は前を向き、言葉を紡ぎ出す。
目を閉じると、彼の笑顔が瞼の裏に浮かんで消えた。