それは舞い散る桜のように
そうして近くのJRの駅につき、改札を潜り抜けたとき、ふと携帯電話が鳴っていることに気づく。
……お母さんからだ。珍しい。
画面をスライドさせ、通話に切り替えた。
「もしもーし」
『さくら?』
「お母さん、どしたのー?」
『ごめんね。実は、家に印鑑忘れちゃってー今日どうしても必要なの。今から職場に届けにきてくれない?』
お母さんは申し訳なさそうにそう言った。
とりあえずよかった。テストのことじゃなかった。
「うえー……面倒」
家から母の職場までは歩けば割とすぐなのだけど、私はあまり乗る気がしない。
家でごろごろする予定が……
いや、勉強する予定が。
『ホントにごめんね。印鑑は、多分電話の横にあるから』
けれど私が母の頼みを断れるはずもなく、電話はそうやってプツリと切れた。
画面には通話時間が表示されているのみ。
私ははぁ、とため息を着くと、折よくついた電車に乗り込んだ。
電車の窓には自分の顔が映りこんでいる。
肩までの黒髪は、つい最近今より5センチほど長かったものを切ったばかり。
あまりクセというものはないまっすぐな髪で、縮毛矯正なんかはかけていない。
まぁ、パーマだとかに対する淡い憧れはあるけど、校則がある以上叶わない夢だなぁと思う。