私立聖ブルージョークス女学院2
「実はあたしの友達が重症のブラコンで、もしこのまま大人になったらどうしようと……神津先生なら、気持ちを分かってもらえるんじゃないか、とそう思って」
 確かに環には二歳違いの兄がいた。昔から何をやらせても環より出来がよかったので、引け目を感じさせられる事が多かった。しかし、環は内心首を傾げたくなった。うちの生徒たちに兄の話をした事があっただろうか?いや、まあ4カ月以上もこの学校にいたら、何かのはずみで口走った事もあったか。
 しかし、この手の言葉が独り歩きするのは日本社会の困った部分だ、とも思った。ここは少々専門的になるが、初歩的な知識から教えてあげるべきだろう、と環は思った。
「ええとね、まず、ロリコン、シスコン、ブラコンというのは和製英語なのよ」
「え?そうなんですか?」
「ええ。ファザコン、マザコンというのも日本独特の言い方ね。本来はそれぞれエディプス・コンプレックス、エレクトラ・コンプレックスと言って、異性の方の親の愛情を独占しようとして異常な行動に出る事を言うのよ」
「でも、ロリータ・コンプレックスって普通に聞きますけど……」
「英語では症候群を意味する、ロリータ・シンドロームと言わないと通じないわよ。むしろ日本から『ロリコン』という言葉がアニメとかの影響で外国に逆輸入されてるぐらいなのよ」
「へええ!それは知りませんでした」
「そこでロリコンから派生してシスコン、ブラコンなんて言葉を日本人が勝手に作って流行らせただけ。だからブラコンというのも、別に精神的な病気というわけじゃないのよ」
「あ、はい、そこは分かっています。あくまで肉体的な問題ですし」
 肉体的な問題?環は一瞬ドキリとしたが、ここでカウンセラーが驚いた様子を見せたら、この女生徒にとって取り返しのつかない結果を招く恐れがある。環はともすれば手が震えそうになるのを必死でこらえた。
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