私立聖ブルージョークス女学院2
October
 秋の気配が急速に濃くなり始めた十月初旬、環は顧問補佐として書道部の部室に来ていた。注文していた新しい筆が段ボール箱一杯届いていた。すると突然、部員の生徒たちが一斉に段ボール箱に群がって奪い合いを始めた。
「あたしが先よ!」
「あ、ずるい!あたしもやるう!」
 と、すごい勢いと剣幕で筆を奪い合っている。驚いた環は隣にいた部長の3年生に思わず尋ねた。
「な、何ですか?あれは」
 部長はにこにこ笑って答えた。
「あはは、毎年の事です。新しい書道の筆は毛先をニカワで固めてあるので、使用する前に筆先をほぐさないといけないんですが、なぜか毎年、それをやりたいという部員が多くて」
「ああ、そういう事ね」
 そう言って環は両手をパンパンと叩いて部員たちの注意を引きつけた。
「あなたたちが今からやろうとしている作業は、単に書道の道具のお手入れに過ぎません。チェリーボーイの筆下ろしとは違います。あたしだって、そんな経験ないわよ」
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