私立聖ブルージョークス女学院2
 11月29日の夜、寮で消灯時間になったので環は抜き打ちの室内見回りを始めた。消灯時間が決まっていると言っても、自動的に部屋の灯りが消えるわけではないし、机に備え付けのスタンドライトを使用して勉強したり読書をする事は多めに見られているのだが。
 最初の三人部屋のドアを開けると、もう電燈は消えてベッドに入っているようだった。だが環は妙な違和感を感じた。ベッドの下に服が、それも下着に至るまで全て置いてあったからだ。眠っている生徒たちは妙にうれしそうと言うか、楽しそうな表情で眠っている。
 次の部屋も、次の部屋も、どの部屋でも女生徒たちのベッドの真下の全ての服が脱ぎ捨てられていた。まさかと思いながら、一人の生徒のシーツをそっとまくって覗くと、やはり下着一枚身につけないで寝ていた。それもほんのりピンク色に上気した顔で、うれしそうな表情を浮かべた寝顔で……
 環は愕然として自分の部屋にかけ戻り、ベッドに潜り込んで頭からシーツをかぶり、考えまいとしたのだが、その疑念は膨らむ一方だった。ま、まさか、あれが女子校、乙女の園にあると噂に聞くユ……ユリ?!
 心配であまり眠れないまま寮の食堂でコーヒーを飲んでいると、綾瀬先生がやって来て環の顔をのぞき込みながら言った。
「あら、どうかした?目が真っ赤よ。寝不足?」
 まだ生徒が誰もいないのを確かめて、環は小声で、しかも少し震える声で昨夜見た事を彼女に話した。すると綾瀬先生は体をのけぞらせて大声で笑った。
「あはは、それで心配して眠れなかったわけね。そうか、今日は11月30日だものね。早いわね、一年が過ぎるのって」
「あ、あの。11月30日がどうかしたんですか?」
「今日は使徒聖アンデレの日と言ってね、イエス様の最初の弟子、第一使徒になった聖人様を記念する日なの。それでこれはヨーロッパの単なる俗信なんだけどね、聖アンデレの日の前夜に何も着ないで寝ると、自分の未来の夫の夢を見るという言い伝えがあるわけ。みんなが裸で寝ていたのはそのせいよ」
「は、はああ……よかった。あたしはてっきり、とんでもない物を見てしまったのかと」
 環がほっとしたところで、いつぞや環に愛の告白をしかけた女生徒が食堂に入って来て、環の姿を見つけると飛ぶように側に寄って来た。
「神津先生、あたし昨晩、先生の夢を」
 環はみなまで聞かずに立ち上がりながら、これでもか!というぐらいそっけない口調で言った。
「寝るときはパジャマぐらい着て寝ないと風ひくわよ。それと、その夢を見せたのは聖アンデレ様じゃなくて、たぶん魔王サタンです」
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