私立聖ブルージョークス女学院2
始業式が終わり、三学期が始まった。雪がちらつく、ある寒い日、環は古典の老女教師に付き合って生徒たちのカルタ会に同席する事になった。それも競技カルタをやるのだと言う。
体育館の一角に畳が二十枚も敷きつめられて、生徒たちが体育用のジャージ姿で集まっていた。
「それにしても正月にカルタ会とは、カトリック系の学校にしては古風な催しですね」
閉めきってあるとはいえ、暖房のない体育館の底冷えのする空気に震えながら環は古典の教師に言った。
「いえ、神津先生。ミッション系の学校ですからこそ、西洋かぶれと言われないように、日本の伝統行事はしっかり身につけさせるべき、というのがわが校の方針なのですわ」
「はあ。それは確かに。それにしても今時の女子高生が競技カルタを喜んでやりたがるとは少し驚きました」
「ああ、それはどうも、何か最近はやりのマンガだかアニメだかの影響らしいのですけど。まあ、動機はなんであれ伝統に親しむのは良いことですから」
ああ、あれか、と環は思った。そういえばマンガの方なら環も一度ぐらい読んだ事はあったような気がする。
生徒たちが二人一組になって畳の上で向かい合い、百人一首のうち五十枚の下の句の札をそれぞれの正面に並べた。読み手はその古典の教師が務めた。まず、読み手が上の句を詠み上げ、下の句が書いてある札を相手より早く見つけて取った方が勝ち、という日本古来の伝統ある遊びだ。
「ちはやぶる……」
読み手が独特の節回しで最初の一首を朗々と読み上げる。おっ、いきなりこれが来たか、と環は思った。が、生徒たちは全員下の句の札をなかなか見つけられず、頭を右往左往させている。読み手の声が続く。
「神代も聞かず、竜……」
次の瞬間、ほぼ全ての組でバーン!と手が畳をはたく音が鳴り響いた。近くにいた組が払った札は環のすぐ前まで飛んで来た。この迫力には環だけでなく、読み手の古典の教師も驚いたようだった。少し震えた声で歌が続く。
「た、竜田川、からくれないに、水くくるとは~」
環は飛んできた札を小走りに拾いに来た生徒に手渡してやった。ちゃんと正解の下の句の札だった。なるほど、「畳の上の格闘技」なんて言われるのは伊達じゃないな、と環はその時は思った。次の句が読み上げられる。
体育館の一角に畳が二十枚も敷きつめられて、生徒たちが体育用のジャージ姿で集まっていた。
「それにしても正月にカルタ会とは、カトリック系の学校にしては古風な催しですね」
閉めきってあるとはいえ、暖房のない体育館の底冷えのする空気に震えながら環は古典の教師に言った。
「いえ、神津先生。ミッション系の学校ですからこそ、西洋かぶれと言われないように、日本の伝統行事はしっかり身につけさせるべき、というのがわが校の方針なのですわ」
「はあ。それは確かに。それにしても今時の女子高生が競技カルタを喜んでやりたがるとは少し驚きました」
「ああ、それはどうも、何か最近はやりのマンガだかアニメだかの影響らしいのですけど。まあ、動機はなんであれ伝統に親しむのは良いことですから」
ああ、あれか、と環は思った。そういえばマンガの方なら環も一度ぐらい読んだ事はあったような気がする。
生徒たちが二人一組になって畳の上で向かい合い、百人一首のうち五十枚の下の句の札をそれぞれの正面に並べた。読み手はその古典の教師が務めた。まず、読み手が上の句を詠み上げ、下の句が書いてある札を相手より早く見つけて取った方が勝ち、という日本古来の伝統ある遊びだ。
「ちはやぶる……」
読み手が独特の節回しで最初の一首を朗々と読み上げる。おっ、いきなりこれが来たか、と環は思った。が、生徒たちは全員下の句の札をなかなか見つけられず、頭を右往左往させている。読み手の声が続く。
「神代も聞かず、竜……」
次の瞬間、ほぼ全ての組でバーン!と手が畳をはたく音が鳴り響いた。近くにいた組が払った札は環のすぐ前まで飛んで来た。この迫力には環だけでなく、読み手の古典の教師も驚いたようだった。少し震えた声で歌が続く。
「た、竜田川、からくれないに、水くくるとは~」
環は飛んできた札を小走りに拾いに来た生徒に手渡してやった。ちゃんと正解の下の句の札だった。なるほど、「畳の上の格闘技」なんて言われるのは伊達じゃないな、と環はその時は思った。次の句が読み上げられる。