私立聖ブルージョークス女学院2
February
 2月12日の夕方、環は着替えなどを詰めた旅行バッグを抱えて寮から校門へ向かっていた。明日は環が目指す近くの政令指定市の公立学校の教員採用試験で、念のため前日から試験会場の近くのホテルに泊まり込む事にしたのだ。学校からは二日休みをもらった。
 校門の近くでチャペルからちょうど出てきた一番年長のシスターと目が合い、シスターが声をかけて来た。
「あら、神津先生。どこかにご出張ですか?」
「いえ、明日が採用試験の日でして。念のため今晩には到着しておこうと思いまして」
「あら、そうでしたわね。どうかがんばって下さいね。それに灰の水曜日とは偶然ですわ」
「は?確かに明日は水曜日ですが……『灰の』って何ですか?」
「イースターの46日前の水曜日を灰の水曜日と申しまして、この日から西方教会ではレントが始まるのですよ。今年2013年のイースターは3月31日ですから」
「ああ、そうでした。イースターの日って毎年変わるんでしたね。でもレントって何ですか?」
「日本語では四旬節とも言います。その期間中の日曜日を除く40日間をレントと言って、まあ、キリスト教徒がイエス様の苦難に思いをはせる慎みの期間とでも申しましょうか」
「はあ、そうでしたか。でも試験日が灰の水曜日だなんて、なんか縁起でもないような……」
「いえ、そんな事はありません。レントは復活祭、つまり楽しいイースターを待つ期間でもあって、灰の水曜日はその始まりの日なのですから、むしろ縁起がいいとお思い下さいな」
「あはは、確かに。物は考えようですわね。それでは、行って参ります」
「試験がんばって下さいね。神のご加護を」
 シスターの言葉に送り出されながら、環は背筋を伸ばして校門をくぐった。
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