大切なもの
放課後、喫茶店へ立ち寄る。

私もゆっこもアイスティーを頼む。
運ばれてきて、一口飲んだ時、ゆっこが口を開いた。

「…沙和、野上と……なにかあったの?」
「……わか、れたの」
「…え?」
「昨日ね――……」

私は昨日の出来事を、一つも漏らさずにゆっこに伝える。
樹のことを待っていたこと。
なかなか来ないから様子を見に行こうとしたとき、颯太に後ろから抱き締められたこと。
“離して”を言う前に、樹が戻ってきて…見られたこと。
その時颯太に…“傍にいてほしい”と言われたこと。

「樹…ね…、私が…笑顔でいれるのは…颯太のところだろう、って…ッ。
樹…優しい顔して…、さよならッて……っ…。
どうして、颯太を振りほどけなかったんだろう…。
わ…私…。樹が、あんなに大事にしてくれたのに…ッ。
樹を、傷付けてばっかりで…ッ……」

涙がこぼれる。

颯太を突き放すこともできない。
樹を傷付けることしかできない。

私……最悪な人間だ…。


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