大切なもの
涙の流しながら、田原はそういった。
「ゆっこちゃんの言う通り。しっかりしろ、樹」

「あなたが…樹くん?」
そう言って声をかけてきたのは、沙和の母親だ。
「はい」
「沙和から樹くんのこと聞いてるわ。
不器用だけど、優しくてまっすぐで。いつも笑顔にしてくれるって。
いつだって、味方でいてくれるって。
そう聞いているわ。想像してた通りの子で、私うれしい。
ねぇ、樹くん。沙和ならきっと大丈夫よ。
あの子ね、そんなにヤワじゃないのよ?
フフッ。だから、信じて待ちましょう?
手術が終わって目が覚めたら。たくさん話してあげてちょうだい」

そう言いながら、俺の手をギュっと握った。

あぁ、沙和の母親だなと思った。
沙和と一緒で、この人の手も…温かい。

「…はい。ありがとうございます」


その時、俺の瞳から涙がとめどなくあふれだした。
「あらあら」

沙和、早く。早く、目を覚まして。

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