大切なもの
俺がベンチに座ると市川は俺から少し距離を置いて座った。
少しっつーか、かなり?

「……なぁ」
「ん?なに?」
「なんでそんな遠くに座ってんの?」
「あ、野上くん、女の子嫌いだから、隣に座られるの嫌だと思って」
真剣にそう言った市川に俺は…

「…フハッ!」
不覚にも、笑ってしまった…。
つーか、普通そこまで気がまわらねぇだろ。

「市川って、おもしろいな」
「どこがおもしろいの??」
「おもしろいっつーか、真面目っつーか、天然っつーか」
「そ、そう?」
無自覚が一番恐ろしいんだよな。

「別に、いいよ。隣来て」

こんなことを言う今日の俺は絶対におかしい。
普通だったら距離を取れと言うくらいだ。

「あ、じゃぁ…おじゃまします」

そう言って隣に座った市川。

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