大切なもの
「俺の家、中1の夏休みから荒れ始めたんだ。
で、中2のトキに親が離婚した。俺は母親に引き取られたんだ。
母親が他の男と付き合い始めたころ…邪魔になったのかな。
俺は…捨てられた」

その瞬間、市川の顔が歪む。

「ていうか、ばぁちゃんの家に預けられたんだ。
けど、さすがに中学生にもなっていたから、分った。
俺は、捨てられたんだ、裏切られたんだ――…って。
あ、今はばぁちゃんの家も出て、1人暮らししてんだ。
…それからだった。
誰も、信用できなくなった。
付き合っていた女は、信じていたのに…。
浮気されて、俺はまた裏切られたんだ――……」

俺、だせぇ。
震えてるでやんの。

「こんな目にあったから、女なんて嫌いになった。
わざと出す、甘く甲高い声。
嫌というほど香る、甘ったるい香水の香り。
外見しかみないとこ。
結局俺は、誰からも…愛されないんだって…っ…」

俺は、涙を流していた…。
その時、市川はふわっと俺を包み込むように抱きしめた。

市川は、華奢で小さな体をしているのに…


なによりも、大きく感じた…。




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