大切なもの
「な…んで?」
「なんつー顔してんだ、バカ」
「あれ、樹じゃん!」
「颯太。沙和のこと、借りるから」
「え??」
「ちょ、樹、沙和!?」

颯太の声が聞こえたけど樹はかまわず、

私の腕を引っ張った。

「樹…っ!」

連れて来られたのは、公園から離れた路地裏。

「樹、いきなりどうしたの?」
「だからさ、なんつー顔してんの」
「ぇ?」

「泣きそうな顔してさ。
…泣きたいなら、泣けよ」

「泣きたく、なんか…っ」

「溜め込みまくったら、
沙和の心が壊れちまうだろーが」

樹はキツく私を抱き締めた。

「ふ…ぅぅ…ヒック…い…つきぃ!」

樹の優しい温もりが、
私の涙腺を破壊した。

我慢していた涙が、想いが、

一気に溢れ出した。



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