【完】 After Love~恋のおとしまえ~
懐かしい人の声は、少しこわばっていた。
「今、友里の家のすぐ近くにいる。いつも迎えに来ていた場所にいるから、出てきてくれないか」
「……無理、行かれない」
私は、手にしていたタオルをぎゅっと握りしめて、そう断った。
「どうして」
「今、シャワーを浴びて出てきたところで、髪も濡れてるし」
それは嘘ではなかった。
髪からは、ぽたぽたと床に雫が落ちている。
「じゃあ、髪が乾くの待ってる」
「すっぴんだし」
「そんなの、別にいいよ」
それは良くない。
自分を振った相手と久しぶりに会うのに、すっぴんなんて嫌だ。
というか、それ以前に……
「今さら何の用?」
「会って話したいことがあるんだ。頼む。どうしても、会って欲しい」
今さら会ってどうするのよ、と思ったものの……
懐かしくないわけではなかったから。
だから――
「……明日ならいいよ」
そんな約束をして、私は電話を切ったのだった。