【完】 After Love~恋のおとしまえ~
翔さんは、私の心の動きに敏感な気がする。
付き合いはじめてしばらく経ったころ、「友里ちゃん、最近元気になったよね」と私の頭を嬉しそうに撫でた。
「知り合ったころはどこか悲しそうな顔をしていたけど、最近は、すっかり元気。いろんなことから立ち直ったのかな。だとしたら、嬉しいよ」
私の負った深い傷を、優しく癒してくれる人。
翔さんは、スモーカーだ。
私は煙草の匂いが苦手だし、健康面を考えても好ましくはないけれど。
でも、翔さんが煙草を吸う仕草が、私はとても好きだ。
特に、少し顔を傾けて煙草に火をつける仕草が。
車の中で吸うときは、運転席の窓を少し開けて、私の方に煙が来ないように配慮してくれるところも。
翔さんは、チェスが強い。
私もけっこうチェスには自信があったのだけど、ハンデをもらわないと勝てないことが悔しくて、わざとズルをしてみると……
「その駒は本来そこには行かれないけど、今だけは特別ルールで行かれることにしよう」
そのたびに、特別ルールを作ってくれる。
それが何だか嬉しくて、たびたび私は、わざと少しだけズルをする。