【完】 After Love~恋のおとしまえ~
コツっとヒールを鳴らし、私は駅の近くのお寺に足を向けた。
そこは、私が初めて彼の部屋を訪れた際に、彼が連れて行ってくれた場所だ。
小さなお寺の境内は、駅前の賑わいとはうってかわって、静けさに包まれていた。
時間の流れが緩やかに感じるその場所で、私はゆっくりと境内を歩き、本堂の前に立つ。
「心霊写真でも撮れたらおもしろいのに」
ここで、そう言いながら私にカメラを向けてきたあの日の彼をふいに思い出し、思わず笑みがこぼれた。
「サトシ」
彼の名前を、そっと口に出してみる。
それは私にとって、温かく、切なく、悲しく、そして優しい記憶を呼び覚ます名前だ。