【完】 After Love~恋のおとしまえ~
私の軽い擦り傷は、病院に着いた頃にはすでに血が固まりかけていた。
しかし、駐車場に車を止めると、「ちょっと待ってろ!」とサトシは車から降りて慌てて病院へと駆けてゆく。
それから、消毒液やガーゼなどを手に戻ってきて、私のひざの手当てをしてくれた。
「よし、これでいい」
手当が終わると、サトシは私の頭に手を乗せてにこりと笑顔を見せた。
「恋人が医者だと、こういうとき頼れるだろ?」
いや、確かに手当をしてくれたのはありがたいけど。
今回の手当は、別に医者でなくても可能というか……
むしろ、出先近くで消毒液を買って、もっと早く手当をしてくれる人もいそうな気がするけど……
病院まで来る必要もなかったような……
でも。
でも。
でも。
病院に戻って来るまでのサトシの運転は、明らかにいつもよりスピードを出していて、焦っている様子で。
……私の傷の手当を早くしないと、と思って、焦ってくれたのかもしれないから。
「うん、ありがと」
私はやっぱり、こんなサトシが好きだ。
「じゃあ、家まで送るな」
「遠いのにごめんね。もう少しお互いの家が近かったら良かったのにね」
「送るのもドライブ気分で楽しいから、距離なんて気にならないよ」
カツサンドとペンギンと、消毒液の匂い。
それが、私とサトシの、初めての長距離ドライブの想い出。