【完】 After Love~恋のおとしまえ~
五回ほど呼び出し音が鳴ってから、「もしもし」と彼女が出た。
想像していたよりも低い声だったことに少し驚く。
「突然の電話で失礼します。小倉さんでしょうか」
心臓は携帯電話の向こうまで音が聞こえそうなほどに大きく波打っていたけれど、努めて冷静な声を出すよう心掛けて口を開いた。
「……そうですけど?」
一方彼女は、見知らぬ番号からの電話に、当然のことながら少し警戒をしている様子だった。
「私、澤田と申しますが」
「え……」
一瞬ひるんだ様子の彼女に、私は明るい口調でこう続ける。
「澤田翔の妹です」
「え……妹さん?」
思いもよらない相手からだったようで、彼女は少し驚いたような声を上げた。
「はい。実は兄から、小倉さんに渡して欲しいと預かっているものがあるんです。お渡ししたいのですが、お会いできませんか?」
「渡して欲しいもの!? 私に!?」
彼女の華やいだ声に、私は呼び出し作戦の成功を確信した。