【完】 After Love~恋のおとしまえ~


最初から戦闘的な姿勢の相手に、私は努めて冷静な口調で話を続けた。

「最初にお伺いしたいのですが、恵美さんはこちらにお住まいなのですか? 引っ越されてないのでしょうか」

「引っ越し? 何の話です? とにかく、あなたには会わせません」

かつて彼から聞いた「彼女はもうすぐ引っ越す」という話は、彼の嘘だったのだろうか。

それとも、彼女がついた嘘?

いずれにしても、引っ越しなどというのは出鱈目な話だったようだ。

「お嬢さんではなく、本日はお母様にお話しがあって伺いました」

「話すことなどありません」

母親はとりつくしまもない態度だったけれど、インターホンを切られないことが不幸中の幸いだった。

「お嬢さんとうちの主人とのことで、お話しがあります」

「こちらには、話すことはありません」

埒があかないので、本題に入ることにする。

「お嬢さんが、うちの主人と抱きあったとかキスをしたなどと書いたノートがあります。お嬢さんの直筆です。このノートに書いてあることについて、お母様とお話しがしたいのですが」
< 523 / 595 >

この作品をシェア

pagetop