【完】 After Love~恋のおとしまえ~
最初から戦闘的な姿勢の相手に、私は努めて冷静な口調で話を続けた。
「最初にお伺いしたいのですが、恵美さんはこちらにお住まいなのですか? 引っ越されてないのでしょうか」
「引っ越し? 何の話です? とにかく、あなたには会わせません」
かつて彼から聞いた「彼女はもうすぐ引っ越す」という話は、彼の嘘だったのだろうか。
それとも、彼女がついた嘘?
いずれにしても、引っ越しなどというのは出鱈目な話だったようだ。
「お嬢さんではなく、本日はお母様にお話しがあって伺いました」
「話すことなどありません」
母親はとりつくしまもない態度だったけれど、インターホンを切られないことが不幸中の幸いだった。
「お嬢さんとうちの主人とのことで、お話しがあります」
「こちらには、話すことはありません」
埒があかないので、本題に入ることにする。
「お嬢さんが、うちの主人と抱きあったとかキスをしたなどと書いたノートがあります。お嬢さんの直筆です。このノートに書いてあることについて、お母様とお話しがしたいのですが」