【完】 After Love~恋のおとしまえ~
無言で携帯を受け取ると、その番号にかけてみる。
電話に出てきた相手に名乗ると、相手は驚いたような声を上げた。
「友里ちゃん? 久しぶり! どうしたの、大丈夫!?」
「大丈夫って……何がですか」
「いや、友里ちゃんと連絡取れないって澤田が心配してたから。でもこれって澤田の携帯からだよね。無事に会えたんだ、良かった」
「あ、はい」
答えてから、あらためて携帯をぎゅっと握りしめて、話を切り出した。
「ところで、うちの近所の女性について相談に乗っていただいていたみたいで、すみません」
「近所の女性? あぁ、小倉さんのこと? なんだ、結局友里ちゃんに話したんだ。心配かけるから言わないって言ってたのに。いやー、それにしても強烈だったよな、あのストーカーは」
電話の向こうから、乾いた苦笑が聞こえてくる。
「避けても避けても道で遭遇してしまうって、翔がまいってたろ。手をつなげだの、死をほのめかして困った要求をされるって。だったら突き放せばいいのに、あいつはそれが出来ないたちなんだよなぁ」
その証言は、さっきの翔さんの告白を裏づけていた。
少し胸をなでおろしたとき、次に続いた発言が気になった。
「まぁ、引きこもりってところが、余計に見過ごせない気持ちにさせられたんだろうな、過去の経験上」
「経験上……って、どういう意味ですか?」
「あ、この話は聞いてないの? だったら、俺から話すのも……」
言いよどんだ相手に教えて欲しいと懇願したところ、テーブルの向いに座っている翔さんが、いったい何の話をしているのかと少し困惑したような表情を見せた。