【完】 After Love~恋のおとしまえ~
落ち着いて、と彼が小倉さんに声をかける。
「確かに彼女は、仕事をしていて、友達もいるよ。俺もいる。でも、それって、全部が突然空から降ってきたものだとでも思ってる? そうじゃないだろ。一生懸命生きてきた過程で、一つずつ自分で手に入れてきたものだ」
翔さんは、優しい口調で彼女に語りかける。
「君にも手に入れて欲しいんだ。頑張って一つずつ。仕事も、友達も、愛する人も」
「無理です。そんなの」
「どうして。勇気を出して、まずは外の世界へ出てみるといいよ。アルバイトをしてみるとか」
自分にできることなど何もないという彼女に、ボランティア活動でもなんでもいいんだよと翔さんは説得していたけれど、彼女はなかなか首を縦に振らないようだった。
「懸命に生きていく中で、人は誰かとの絆を育んでいくんだと思うよ。友達も、恋人も、欲しいならまずは外に出かけないと」
――懸命に生きる中で、人は誰かとの絆を育んでいく。
その言葉を聞いたとき、ふと、サトシや結衣子さん、谷本先生の顔が頭に浮かんだ。
深い絆は一朝一夕にできるものではないけれど、その絆は、一朝一夕で壊れたりしない強固な絆。
いろんなことがあって、私は、この人たちとの絆を育んできたんだ。
もちろん、翔さんとの絆も――