【完】 After Love~恋のおとしまえ~


「で、慈悲の心が湧いた、と?」

「んー、実はそれだけでもないんだけどね」


彼女がこのまま引きこもっていたら、翔さんの帰国を延々と待ち続けるかもしれない。

そうしたら、帰国後にまた私は心配しなくてはならなくなる。

小倉さんがまたしつこく接してくるのではないかと。

それよりは、それまでに彼女が他のことに目を向けられるようになっていてくれた方がいい。

そんな自己保身の意味もあってのことだった。


「でもね、シェリーの散歩を頼まれて、戸惑いながらも喜んでる様子だったのよ」

自分にもできることがある、と発見していくことは、きっと彼女にとって大きな意味のあることだろう。

「じゃあ、そもそも最初から、澤田さんは単にシェリーを彼女に渡せばそれで良かったんじゃないか? 変な風に関わる前に」

「今となってみると、そうかもね」

笑い合う私たちの頭上を、かもめが飛び交っていく。
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