【完】 After Love~恋のおとしまえ~
「それでね」とカナさんが言葉を続けた。
「それで、友里さんはご主人の元へ行った方がいいって、何度もサトシを通して意見しちゃったの。差し出がましいこと言ってごめんなさい。でも、何かあったとき、そばにいなかったことをどんなに口惜しく思うか私は身をもって知っているから。夫婦は離れていたらダメだと思ったんです」
足元に視線を落とした私に、「本当にしつこくてごめんなさい」とカナさんが謝ってきた。
「友里さんが仕事を大事に思っていることも、サトシから聞いて知っています。でも、優先順位のつけ方を間違えて、後悔しないで欲しいから」
優先順位のつけ方を間違えるな、という言葉に、はっと顔を上げた。
優先順位。
そうだ、そもそも私は、優先順位のつけ方を間違えたことで、サトシとだめになったのだった。
そして私は、もう一つ大切なことを思い出した。
私が今の仕事に就いたのは……文章を書く仕事に就きたいと思ったきっかけは……翔さんが、私の書いたものを読みたいと言ってくれたからだった。
「これ、私とサトシからプレゼント。もしもドイツに行こうと思ったら、そのときに開けてください」
カナさんが、バッグから取り出した包みを私の前に差し出してきた。
「ありがとうございます……でも、ドイツに行かない場合は開けちゃダメなんですか?」
受け取りながらそう尋ねると
「うん、開けちゃダメ!」
カナさんが、冗談っぽく片目を閉じた。