【完】 After Love~恋のおとしまえ~
それは、残暑厳しい日曜日の、ドライブ・デート中のこと。
洋楽あふれる車内に、携帯電話の着信音が響いた。
シンプルな着信音はサトシのものだ。
サトシは胸ポケットから携帯を取り出し、画面にチラリと目を走らせると
「ちょっとごめん、病院からだ」
路肩に車を止め、通話ボタンを押した。
「もしもし、何かあった?」
患者さんの容態のことでの連絡らしく、サトシは電話の相手にテキパキと指示を出しはじめる。
サトシが話しやすいように、私はカーステレオの音楽を止めた。
車内の音楽が消えると、車外ではセミが大合唱をしていることに気づく。
サトシはといえば、真剣な表情で、私には分からない医学用語を交えた話を続けていた。
そのサトシの顔は、いつものサトシからは想像もできない「医師の顔」であり――
いつものちょっとバカっぽい無邪気なサトシとは全く違う、頼りがいのありそうな男の顔に、私はドキリとしてしまう。