生意気な彼は御曹司!?
それだけ言うと、斉藤くんはすぐに通話を切る。そして私の腕を掴んだまま、駅前広場を横切り始めた。
今日の斉藤くんは威厳に満ち溢れているような気がする。普段とは少し印象が違う彼に戸惑っていると、目の前に一台の車が滑り込んできた。
車に詳しくない私でも、ダックスフントのように車体が長い高級車のことは知っている。
これって、リムジンだよね?
突然、目の前に停まったリムジンに驚いていると運転席のドアが開く。そして中から黒いスーツ姿の男性が出てくると、後部座席のドアを開けて頭を下げた。
いったい、何なの?
不安げに斉藤くんを見つめると、掴まれていた腕が離される。
「先輩。さあ、中へどうぞ」
「……!?」
斉藤くんは驚きで声も出せない私の指先を優雅に取ると、スマートにエスコートしてくれる。勧められるがまま車内に足を踏み入れた私は、シートに腰を下ろした。
黒の革張りのシートの隅に遠慮がちに座っただけなのに、身体が沈み込みそうになる。その座り心地の良さにビックリしていると、斉藤くんがスマートフォンで会話をしながらリムジンに乗り込んできた。
「今から三十分後に到着するんで、よろしくお願いします」
斉藤くんが通話を終わらせて向かいのシートに腰を下ろすと、後部座席のドアが静かに閉まる。そしてしばらくすると、エンジン音も振動も感じることなく、私たちを乗せたリムジンは駅前広場から走り出した。