生意気な彼は御曹司!?
仕方ない。ミスをしてしまったのは自分だ……。
気合いを入れ直すと、パソコンに向かって新しいデータを打ち込んだ。黙々と作業をする私の様子を、相変わらず腕組みしながら清水部長がじっと見つめている。
ウッ! すんごく、やりづらいんですけど!!
もちろん、そんな苦情を清水部長に言えない。私はただ、ひたすらキーボードを叩いた。けれど、清水部長が発した言葉に耳を疑い、キーボードを打つ手が止まる。
「斉藤とふたりきりで残業なんて……妬けるな」
「……はい?」
今、『妬ける』って聞こえたような気がしたけれど……。
驚きながら清水部長を見つめれば、容赦ない指示が飛ぶ。
「ほら。手を動かす」
「え? あ、はい」
あ、なんだ、やっぱり聞き間違いだ。だって清水部長が部下である私に『妬ける』なんて言うはずがないもんね。現にキーボードを打つ手が止まったことを、冷静に注意されたし……。
ドキドキと高鳴った鼓動を落ち着かせるために大きく息を吐き出すと、入力作業を再開した。
でも……。
「オマエも他の女子社員のように、斉藤を格好いいと思うのか?」
残業中に仕事とは無関係なことを聞くのは、どうして?
清水部長の言葉を不可解に思いつつも、返事をした。
「そうですね。斉藤くんは確かに格好いいと思います」