私は猫



ヒナ、私はお店ではそう呼ばれている。



いわゆる源氏名というもの。



「はい、どうしました?」



ママはカウンターで作業をしながら私に声をかけていた。



カウンターには一人の男性が座ってこっちをじっと見ていた。



「あっ……こんにちは」



まだ開店してないというのに…、ママの知り合いなんだろうと思った。



私は驚きながらも、ママに近づいた。



「この方は」



まだ始めてから半年も経たないけど、常連さんの顔や名前はみんな覚えている。



「南康介さん。古い知り合いなのよ。久しぶりに大阪から来てもらって…あなたの話をしていたところ」



ほら、挨拶して。とママが言った。


「ヒナです。はじめまして、南さん」



「よろしゅうなヒナちゃん。ここ座り…あっママ、これは指名やないで!堪忍したってなぁ」



自分の隣の席をポンポンと叩き、独特なイントネーションで話す南さんは男らしくて素敵だった。



「失礼します」



私が隣に座ると南さんはニッと歯を見せて笑った。


焼けた肌に白い歯が際立っていて。


グレーのスーツを程よく着くずした南さんに胸が熱くなった。



「新人さんなんやろ。またママは可愛ええ子ばっか連れてきよって」



まだ衣装にも着替えてない私は、ここに座っているのが恥ずかしかった。



「こんな大きい人にまじまじ見られたらヒナがかわいそうでしょ」


ママは南さんに飲み物を注ぎながら苦笑した。



「あっ、大丈夫です!…こんな格好で、ここに座るのは何だか落ち着かなくって」



私は着ていたシャツの裾を指でいじった。



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