私は猫
Ⅱ
次に目を開けたときも、私の生活は何一つとして変わっていなかった。
「おはよう」
この返事のない挨拶や、小さい植木鉢に咲く花、コーヒーの匂いまで、全部今までどおりだった。
昨日までのことを忘れ、私はホステスとしてまた一皮向けたような気分だった。
♪♪♪♪~
「もしもし」
「ヒナ?おはよう」
「おはようございます」
この毎朝のママからの電話も変わらなかった。
「あなた昨日、南さんを駅まで送っていくって言ったきり、帰ってこないから心配したのよ」
あ…そうだった
「すみません」
「元気そうならいいわ。…ねぇ、南さんと何かあったのかしら」
「いいいいいいえ!何にも!途中、南さんが寝ちゃってホテルのフロントの方呼んでそれで…」
「ああそうなの。昔からそうなのよね。お酒飲むとすぐ寝ちゃうクセ」
「そうだったんですか」
電話越しにママの笑い声が聞こえた。
私はため息をついて、電話を持ち替えた。
「掃除やらなんやら、昨日は菜々子がやってくれてたみたいだから、ヒナからもお礼言っておきなさいよ」
「菜々子さんがっ」
私はつい大きな声を出してしまった。
「ヒナもいよいよか…とか言ってたわ」
「わ、何ですかそれ。完全に誤解されてるじゃないですか」
「っていうことは何にもなかったのね。…よかったわ」
そのママの言葉に私は申し訳なくなった。
昨日のことは事故。
南さんが酔っていて、私を結衣さんと勘違いしただけ。
───そう、ただ、それだけ。
私はこのことは誰にも話さないでおこうと決めたんだ。
「大丈夫ですから。…とにかく昨日はすみませんでした」
私の今日のお昼ごはんを今すぐ作り始めることにした。